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認知症とは、病気の名前ではなく、症状の総称を表します。人間の活動は、脳(脳の神経細胞)が正常なときに可能になるものですが、なんらかの原因で神経細胞が死んでしまうと、物事を覚えたり、判断したり、行動したりすることができなくなっていきます。つまり、認知症の症状は、神経細胞が死んでいけばいくほど、症状も悪化していきます。逆に言えば、認知症になりにくくすることや、早期発見、早期治療が可能であるということです。ここでいう早期治療とは、完治という意味ではなく、症状を遅らせるという意味です。いわゆる徘徊したり、家族を忘れてしまうなどの重症化にならないように、私たちはやるべきことがあります。ただ一度認知症になると、つまり神経細胞が死んでしまうと、元に戻れないのです。
認知症になる原因は、300以上あると言われていますが、通常私たち思い浮かべるのは「アルツハイマー型認知症」だと思います。認知症になる原因疾患の割合は、アルツハイマー型認知症が70%弱、脳血管障害が20%弱で両者で約90%を占めます。ここでは、アルツハイマー型認知症について、お話しします。
日本は高齢化がすすんでいます。それにつれ認知症の方も増えています。厚生労働省の統計では、2025年には約700万人、65歳以上の5人に1人が認知症になると予想されています。また、認知症には必ず前段階があり、それを「軽度認知障害」と言います。軽度認知障害は、適切な予防をすればもとに戻る段階ですが、放っておくと50%の方が認知症になる状態です。現在400万人いると予想されています。
アルツハイマー型認知症の原因は、まだはっきりわかっていません。わかっていることは、脳内の老廃物である「アミロイドβ(ベータ)」や「タウ蛋白」というたんぱく質が異常に蓄積することが、脳の神経細胞の死に関わっているということです。この2つのタンパク質は健康な人も年をとれば蓄積されますが、アルツハイマー型認知症の方は早い段階で病的に蓄積され、神経細胞が死に、脳が萎縮していきます。認知症というと、徘徊したり、なにもかも(家族の名前も)憶えていないような状態を想像しますが、いきなりそうはなりません。アルツハイマー型認知症は、必ず時間をかけて症状が悪くなります。認知症は、年単位で進みますので、昨日は普通で今日はおかしいというのは、アルツハイマー型認知症ではありません。
まず初期段階として、2~3年あります。この期間はまず「記憶力の低下」が起こります。最初は本人が物忘れを自覚することもあります。また今まで興味のあったことに無関心になったり、情緒不安定になったりしますが、日常生活はおくれます。
中期段階は、4~5年あります。この期間は日常生活に支障がでてきます。この期間は、ものの場所がわからない、食べたことを覚えていない、なにに使えばいいかわからないということがおきてきます。夕ご飯を何度も食べたり、買い物行って帰ってこれない、昼夜逆転して、夜寝れない、不穏、徘徊、幻聴、幻覚、失禁が見られます。ご家族が一番介護が大変な時期になります。
後期段階は、なにもできなくなります。食事、着替え、排泄、入浴は、やり方がわからないため、本人は動けません。興味もなくなります。家族に、「あなた、だれ?」というのもこの時期です。
さて、次に認知症が一気に進む原因をお話ししたいと思います。前述しましたように、アルツハイマー型認知症は徐々に進行する病気ですが、短期間で症状が進む場合があります。それは、「脳に刺激がなくなったとき」です。つまり、夫が亡くなって一人暮らしになった、友達がいなくなった、運動しなくなった、家にいる時間が長くなった など、一人ぼっちになった時です。私たちは、見たり、聞いたり、話したり、体を動かすことで脳に刺激が伝わり、神経細胞を活動させます。刺激がなくなると、神経細胞が使われないために、死んでいくのが早くなってしまいます。逆に言えば、認知症にならない予防もできます。
脳を刺激するには、「考える」「思い出す」「体を動かす」などの脳のトレーニングが有効です。
たとえば、買い物する前に、料理の献立を考え、ノートにまとめて、買い物の順番を決めたり、2日前の出来ことを日記にしたりします。週に3回ほどの運動は筋肉の衰えを予防し、寝たきりを予防しますし、体を動かすことで脳の神経細胞が刺激され、外出にも積極的になれ、人生が楽しくなります。運動と同じぐらい大切なのは、食事です。1日3食バランスよく食べることです。これは、40歳あたりから気を付けないといけません。炭水化物や脂質が多い食事は、体内で「活性酸素」という強い酸化作用をもつ物質が多くできて、体内の臓器を酸化させてしまいます。これにより、がんや老化がはやまってしまいます。高血圧や糖尿病は認知症にも大きく関連が言われていますので、40代のときから体重を増やさないようにして、運動・食事に気を付けないといけません。アルツハイマー型認知症は、高齢者のだけの病気ではないということです。20年、30年の蓄積が70代であらわれてしまいます。今から良質なたんぱく質と野菜中心の食事にしてください。
周囲の方、特にご家族や友人に、「なんかいつもと違う」と指摘されたら、迷わずかかりつけ医に相談しにいきましょう。同じ話しをする、人付き合いが悪くなる、化粧しなくなる、あれなんだっけと言う などがあれば認知症を疑います。認知症の検査して異常がなくても、定期的に通院して、主治医に自分の状態を知ってもらうのが安心です。
軽度認知障害の段階で、生活習慣の改善や運動をすれば、50%の方が元に戻れます。また認知症の疑いあれば、早期に治療(内服)すれば、進行のスピードを遅らせることができます。
まとめますと、認知症の方は増えています。65歳以上の方の5人に1人が認知症です。どんな病気も予防、早期発見、早期治療が必要です。認知症も同じです。今からできることは、バランスのいい食事、適度な運動、家にいないで外にでることです。そして、家族、友人におかしいと言われたら、かかりつけ医に相談することです。
普段からなんでも診てくれるかかりつけがいれば、こんなに安心なことはありません。