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腸内細菌があなたの健康を左右する ― 腸を整えることは、全身を整えること ―

最近よく耳にする**「腸内細菌」**についてお話ししたいと思います。

私たちの体の中には、自分以外の生き物がたくさん住んでいることをご存じでしょうか。

特に腸の中には、非常に多くの細菌が暮らしています。

私たちは、

「腸は食べ物を消化して、便をつくるところ」

と思いがちです。

もちろん、それも大切な仕事です。

しかし、現在の医学では、腸はそれだけの臓器ではないことが分かってきました。

「腸を整えることは、全身を整えることにつながる。」

ということです。


1.腸の中には「もう一つの世界」がある

私たちの大腸を中心に、非常に多くの微生物が暮らしています。

これをまとめて、

「腸内細菌叢」
あるいは
「腸内マイクロバイオーム」

と呼びます。

腸の中を一つの町だと思ってください。

そこにはいろいろな住民がいます。

私たちにとって役に立つ働きをする菌もいれば、普段はおとなしく暮らしている菌もいます。

重要なのは、

「この菌だけを増やせば健康になる」

というような単純な話ではありません。

さまざまな種類の菌が、お互いに影響しながら一つの生態系をつくっています。

ですから、

腸内細菌で大切なのは、一種類の“善玉菌”だけを見るのではなく、腸全体のバランスを見ることです。


2.腸内細菌は何をしているのか

では、この腸内細菌。

一体何をしているのでしょうか。

食事として入ってきたものの中には、私たち自身の消化酵素だけでは十分に分解できないものがあります。

例えば、

食物繊維。

腸内細菌は、この食物繊維などを利用して、

短鎖脂肪酸

と呼ばれる物質をつくります。

酪酸、酢酸、プロピオン酸などです。

難しい名前を覚える必要はありません。

大事なのは、

私たちが食べたものを腸内細菌が利用し、さらに別の物質をつくり、その物質が私たちの体に影響する

ということです。

つまり、

私たちは、自分一人で食事をしているわけではありません。

腸内細菌にも食事を届けているのです。

食物繊維によって短鎖脂肪酸をつくる細菌が増え、代謝の改善と関連したというヒト介入研究もあります。


3.腸は「免疫」と深く関係している

そして、腸の非常に重要な働きが、

免疫です。

考えてみてください。

腸は、食べ物という「外から入ってきたもの」に毎日大量に触れています。

その一方で、

細菌やウイルスなどの侵入を防がなければなりません。

つまり腸では、

「これは大丈夫」

「これは危険」

と判断しながら、免疫系が絶えず働いています。

その免疫の調節に、腸内細菌が深く関係しています。

実際にヒトでも、腸内細菌と免疫細胞の動きとの関連が確認されています。

ですから腸は、

単なる「便をつくる場所」ではなく、

体の外と中を分ける巨大な防御ライン

とも考えることができます。


4.では、太りやすさにも関係するのでしょうか

ここは非常に興味深いところです。

腸内細菌と、

  • 肥満
  • 血糖
  • 脂質代謝
  • インスリン抵抗性
  • 慢性的な炎症

との関係が盛んに研究されています。

では、

「太っているのは腸内細菌のせいですか?」

というと、そう単純ではありません。

体脂肪は、

摂取カロリー、運動量、睡眠、筋肉量、遺伝、ホルモンなど、

さまざまな要因によって決まります。

腸内細菌は、その中の一つの重要な要素として研究されていると考えるのが適切です。

つまり、

「痩せ菌を飲めば痩せる」

というような話ではありません。

そこは注意してください。

しかし一方で、食物繊維など食事内容を変えることで腸内細菌やその代謝産物が変化し、それが代謝に影響する可能性については、ヒトの臨床研究でもデータが積み重なっています。


5.食事を変えると、腸内細菌も変わる

腸内細菌は、

自分ではどうすることもできない存在ではありません。

毎日の食事が大きく関係します。

特に大切なのが、

食物繊維を含む食品です。

例えば、

野菜。

海藻。

きのこ。

豆類。

果物。

全粒穀物。

こうした食品です。

「乳酸菌を飲めばいいですか?」

とよく聞かれます。

もちろん乳酸菌などを含む食品にも研究があります。

「一つの菌を入れること」だけに注目するより、まず腸内細菌が利用できる食事を毎日届けることが大切です。


6.発酵食品も面白い

もう一つ注目されているのが、

発酵食品です。

ヨーグルト、納豆、味噌、キムチなどですね。

2021年に発表されたヒトを対象とした研究では、発酵食品を多く摂取したグループで、腸内細菌叢の多様性が増加し、複数の炎症関連指標が低下しました。

ただし、

「ヨーグルトを食べれば病気にならない」

という意味ではありません。

腸内細菌には大きな個人差があります。

ですから大切なのは、

特定の食品を魔法の薬のように考えないこと。

食事全体を見ることです。


7.今日からできる「腸を守る食事」

では、難しいことを全部忘れていただいて構いません。

今日から何をしたらいいのか。

私は、こう覚えていただくといいと思います。

「いろいろな植物を食べる。」

野菜だけではありません。

豆、海藻、きのこ、果物、穀物。

なるべくいろいろな食品を食べる。

そして、

「発酵食品を上手に取り入れる。」

納豆でもいい。

味噌でもいい。

ヨーグルトでもいい。

そしてもう一つ。

「一日ではなく、続ける。」

これが非常に大切です。

腸内細菌は、

昨日一日だけ野菜を食べたから全部変わる、

というものではありません。

毎日の生活習慣の積み重ねが重要なのです。


8.腸を診るとき、便だけを見ない

そして医療の立場から、もう一つお伝えしたいことがあります。

「便秘だから腸内環境が悪い」

「毎日便が出るから腸内環境は完璧」

とも限りません。

腹痛、便秘、下痢、血便、体重減少などには、

腸内細菌だけでは説明できない病気が隠れていることがあります。

特に、

血便が続く。

急に便通が変わった。

体重が理由なく減ってきた。

強い腹痛が続く。

こういう場合は、

「腸活をして様子を見よう」

ではありません。

きちんと医療機関で原因を調べることが大切です。

腸内細菌は大事。

しかし、

何でも腸内細菌のせいにしない。

これも非常に大事なことです。


9.最後に

皆さん。

私たちは毎日、

「自分のために」

食事をしていると思っています。

でも今日から、少し考え方を変えてみてください。

朝ご飯を食べるとき。

昼ご飯を食べるとき。

夕ご飯を食べるとき。

「今日、腸の中の住民に何を食べさせようか。」

そう考えてみてください。

腸内細菌は目には見えません。

しかし私たちが食べるものによって、

腸の中の環境は変わっていきます。

その影響は腸だけにとどまらず、

免疫や代謝など、全身との関係が研究されています。

 

「腸は、ただ便をつくる場所ではない。」

そして、

「腸を整えることは、全身を整えることにつながる。」

その第一歩は、

高価なサプリメントではなく、

毎日の食事です。

明日の食事ではなく、

今日の一食から変えることができます。

ぜひ皆さん、

腸の中にいる、目には見えない大切な仲間たちにも、

良い食事を届けてあげてください。