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きくち総合診療クリニック

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総合診療かかりつけ医が全国に拡がれば、
地域医療は守られる

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「総合診療かかりつけ医」がこれからの日本の医療に必要だと私は考えます。

日本は今、地域医療の危機を迎えています。
このままでは近い将来、患者さんがかかりつけ医を見つけられなくなり、地域医療が崩壊してしまうかもしれません。
「総合診療かかりつけ医」がこれからの日本の医療に必要だと私は考えます。』の著者、菊池大和医師が現状と課題、真のかかりつけ医の必要性、そして地域医療を守るための方策について伝えています。

たらい回しにされた患者さん

この記事をまとめていた夏のある日曜日、夜6時になる少し前に、90歳の男性が家族に連れられて私のクリニックを訪れました。

1週間前にのどが痛くなり、近くにある耳鼻科を1人で受診したそうです。その耳鼻科で、のどの薬をもらったと言います。

その3日後には、吐き気も出て食欲がなくなったため、前からお世話になっている別の耳鼻科に電話をしました。すると、「食欲がないのでしたら、内科を受診してください」と言われました。

そこで高血圧の治療のために通院している内科に行ったところ、「これで様子を見てください」と吐き気止めを処方されました。

けれども、症状は一向によくなりません。吐き気のために水分も摂れなくなってきました。こうして、一般的なクリニックが休診の日曜日になりました。

男性は高齢の奥様と2人暮らしでしたが、奥様には認知症があります。

困ったときにたらい回しにされた患者さんが来てくれた夜は、近所に住む娘さんや、息子さんのお連れ合いを頼っていました。このときも男性が電話で体調不良を訴えると、2人は心配して駆けつけたそうです。

2人は休日診療所を探し出して、男性を連れて行きました。けれども、その休日診療所でも坐薬の吐き気止めを出されただけでした。

「このような治療でよくなるとは思えない」と考えた2人は、インターネットで休日でも開いている当院を見つけてやってきたのです。

診療室に入ってきた男性はふらついていて、血圧が下がっていました。風邪の症状がきっかけで、脱水状態になっていると考えられました。あと1日でも受診が遅れていたら、命の危険にさらされていた可能性があります。

点滴で水分補給をすると、症状が落ち着き、本人も「楽になった」と言います。ホッとした様子を見せたご家族と男性は帰宅しました。翌日以降、何度か通ってもらいましたが、5日ほどで元気を取り戻しました。

この方と似たような患者さんが、私のクリニックにはしょっちゅうやって来ます。

本当の「かかりつけ医」がいない

読者の皆さんは、このエピソードを読んでどう思ったでしょうか? 「なぜ、そんなことになったのか」と驚いたでしょうか? あるいは「ありそうなことだけど、結果オーライでよかった」と思ったでしょうか。

いずれにせよ、これが日本の地域医療の現状です。困っている患者さんがクリニックをいくつ回っても、適切な治療を受けられない場合があるのです。

世界トップクラスの医療技術を持つといわれる日本ですが、それは病院での医療です。一般の人たちが「どうも体調がすぐれないな」と思ったときにまずかかる初期診療の現場で、適切な医療が提供されているとは言いがたいのです。

「初期診療の現場で、適切な医療が提供されない」ということが起きる根本的な原因は、「本当のかかりつけ医がいない」からだと私は考えています。

この90歳の男性を診察した4人の医師には、「自分はこの男性のかかりつけ医だ」という意識がなかったと思われます。男性が「かかりつけ医」だと信じていた内科の医師にも、おそらく患者さんが期待していたほど「大事なうちの患者さんだ」という気持ちはなかったのでしょう。そして、患者さんを危険な状態に追い込むことになったのです。

日本には本当の「かかりつけ医」がいない。

そう実感させたのは、2020年に世界中を席捲した新型コロナウイルスです。「かかりつけ医だと思っていたのに、診療を拒否された」というケースが全国で相次ぎました。

日本には欧米のような「家庭医制度」がありません。患者さんの意志で、複数のクリニックに行くことも自由です。

そのため、医師にとっても「治療の途中なのに患者さんが来なくなってしまう」ことが当たり前のようにあり、「来てくれた患者さんを責任を持って診る」というマインドが稀薄になっているのだと思われます。

医師の能力の問題ではなく、日本の医療のあり方が「医師としての根本的な責任感」のようなものを削いでいるような気がします。

かつて「町医者」と呼ばれていた開業医は、住民の健康相談から急患まで、すべての病気を診療することが当たり前でした。けれども、そんな「町医者」の姿が、日本から見えなくなった気がするのです。

本来の医師は、専門外のことも含めて総合的に病気を診る能力があり、また、診ようとする姿勢も持っているべきです。

「総合診療かかりつけ医」第1号として

このままではいけません。

これからの日本では、高齢者がどんどん増えるのです。高齢者には車を運転しない人が多く、歩行が困難な人も少なくありません。「耳鼻科で扱う病気ではないから、内科へ行ってください」と言われても、そう簡単には行けません。

認知機能が低下していて、思うように行動ができない人もたくさんいます。近くに頼れる家族や親戚がいない人も多いのです。にもかかわらず地域のクリニックが今のような臓器別・専門別のままでは、冒頭の男性のようなケースが日本中に増えるだけです。

この問題を解決するために必要なのは、初期診療で対応する「いつでも、なんでも、だれでも まず診る 総合診療かかりつけ医」です。もちろん「初期診療」だけ対応するわけでなく、1人の患者さんにずっと寄りそって伴走するかかりつけ医です。

この「総合診療かかりつけ医」は私が作った言葉です。

総合診療専門医と名前は似ていますが、違うものです。

患者さんが来院したら「いつでも、なんでも、だれでも、まず診る」。そして、容態によっては大きな病院に紹介する。本当のかかりつけ医として責任を持って診察した患者さんに寄り添う開業医のことを、私は「総合診療かかりつけ医」と呼ぶことにしました。

その総合診療かかりつけ医の第1号が、私です。

今の日本の地域医療の現場に必要なのは、「総合診療かかりつけ医」であり、総合診療かかりつけ医がいる「総合診療クリニック」です。

患者さんの訴えすべてに対応する

総合診療かかりつけ医である私は、神奈川県綾瀬市という所で「総合診療クリニック」を開いています。平日の夜は8時まで、土日祝日も診療し、救急外来もおこなっています。

現在の日本のクリニックの多くは、医師が自分の専門領域を生かした専門クリニックで、診る症状や病気がおおむね決まっています。また、夜間や日祝日は休診というところがほとんどですから、特異なクリニックだといえるでしょう。

「総合診療かかりつけ医」がこれからの日本の医療に必要だと私は考えます。

私は研修医時代から、「患者さんの訴えすべてに対応できる医師になりたい」と思っていました。また、高齢化が急速に進む日本でこれから必要なのは、専門クリニックではなく、「いつでも、なんでも、だれでも、まず診る総合診療クリニック」だと強く思っていました。

そこで2017年に現在のクリニックを開院したのです。