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ある日、患者さんが来ました。
「先生、胸も少し痛いし、背中も痛いんです。なんとなく息苦しい感じもあります。」
私はまず、これまでどこかに相談したか聞きました。
すると、その患者さんはこう言いました。
「最初に近くの病院へ行ったんです。でも、胸が痛いなら循環器じゃないかと言われました。」
それで循環器を受診したそうです。
心電図などを調べてもらって、
「心臓は大丈夫そうです。」
と言われた。
でも、背中の痛みは残っている。
そこで、
「背中なら整形外科ですね。」
と言われて、今度は整形外科へ行った。
整形外科では、
「骨には大きな異常はありません。」
と言われた。
でも患者さんは、まだ苦しい。
胸もなんとなく変だし、背中も痛い。
食欲も少し落ちてきた。
そして私の診察室で、患者さんが言ったんです。
「先生、結局、私はどこに行けばいいんでしょうか。」
この言葉を聞いたとき、私は少しイラッとしました。
もちろん、患者さんにではありません。
「なぜ病気で困っている患者さん自身が、診療科を決めなければいけないんだろう」
と思ったんです。
考えてみてください。
患者さんは、自分の病名が分からないから病院に来ています。
もし最初から、
「これは狭心症です。」
「これは肺の病気です。」
「これは胃の病気です。」
「これは筋肉の痛みです。」
と分かっているなら、最初から専門科へ行けるでしょう。
でも、普通は分かりません。
胸が痛い。
背中が痛い。
だるい。
食欲がない。
少し息苦しい。
患者さんが分かるのは、そこまでです。
その症状の裏に何があるのかを考えるのが、医師の仕事です。
心臓なのか。
肺なのか。
胃なのか。
筋肉や骨なのか。
あるいは全く別の病気なのか。
そこを患者さんに考えさせて、
「これは何科でしょう?」
と病院を探させる。
私は、そこに少し違和感があります。
場合によっては、患者さんは、
循環器へ行って、
整形外科へ行って、
消化器内科へ行って、
それでも分からない。
その間にも病気は進んでいるかもしれません。
特に高齢になると、一つの症状だけではありません。
胸が苦しい。
腰も痛い。
食欲もない。
夜も眠れない。
薬もたくさん飲んでいる。
そんな患者さんに、
「それはうちの科ではありません。」
と言ってしまったら、
では、その患者さん全体を誰が診るのでしょうか。
私は、そこに総合診療かかりつけ医の役割があると思っています。
患者さんに、
「何科に行けばいいでしょうか。」
と聞かれたとき、
私はできるだけ、
「まず、ここで診ましょう。」
と言いたい。
まず話を聞く。
診察する。
必要なら血液検査をする。
心電図をとる。
レントゲン、CT、MRIなど、本当に必要な検査を考える。
そのうえで、
「これは循環器の専門医に診てもらいましょう。」
「これは整形外科で詳しく診てもらいましょう。」
と、医師が道筋をつくる。
そして専門医の治療が終わったあとも、
「また何かあったら、ここに戻ってきてください。」
と言える。
私は、これがかかりつけ医だと思っています。
病気を全部一人で治す医師ではありません。
患者さんを最初に受け止めて、必要な場所につないで、そしてまた戻ってきてもらう医師です。
患者さんが病院を探し続けるのではなく、
困ったときに、
「あの先生にまず相談しよう。」
と思える。
そんな医師が一人いるだけで、患者さんの安心感はずいぶん違うと思います。
だから私は、
患者さんに診療科を選ばせる医療ではなく、まず医師が患者さんを引き受ける医療にしたい。
そう思っています。
そして私は、それが
「総合診療かかりつけ医」
の大切な役割だと考えています。